現代農業最大の疑問

「窒素肥料」の謎を解く

化学肥料を使う「慣行農法」や、有機肥料を使う「有機農法」、さらには肥料を使わないという「自然農法」など、農業界にはいろいろな栽培技術があります。ところが、すべての農法に共通しているのが、「農作物を育てるには窒素分が必要である」と信じられていることです。

窒素肥料を土の中に施すと、窒素分は「硝酸態窒素」あるいは「アンモニア態窒素」と呼ばれる形になり、これらの成分が植物の栄養源として吸収される──と固く信じられています。しかし、窒素肥料を使う野菜は不健康になり、病気や虫害を引き起こすようになります。

長年の研究の過程で、野菜(植物)と窒素の関係が見えてきました。この考察は、2014年に著した「自然農法ノート」に収録しているものです。現代農業界にとって衝撃的な結論になりますが、自然界を冷静に見渡せば、反論することは難しいのではないかと考えています。

これまでHalu農法に関心のある方にのみ公開してきたレポートですが、抜粋して公開します。

硝酸態窒素のなぞを解く(自然農法ノート第三章より)

現代農業で最も重要視されている窒素肥料について考察します。窒素肥料は土壌のなかで硝酸態窒素(あるいはアンモニア態窒素)に変わり、植物は根っこからこれを吸収します。しかし、なぜ植物は硝酸態窒素を際限なく吸収してしまうのでしょうか。このなぞを、自然農法の視点から解こうと思います。

太古の昔から、植物と微生物は緊密な共生関係を築いてきました。植物が放出したブドウ糖に対して、微生物はアミノ酸やビタミン、酵素、ミネラルといった養分を、きっちり適量お返しします。そこでの養分のやり取りには、過不足などありません。つまり、硝酸態窒素は、両者の共生関係には登場してこないのです。

では、硝酸態窒素は、自然界においてどこから発生するのでしょうか。生態系の環が拡大すると、大地は数百年、あるいは数千年かけて深い森になります。土壌のなかには微生物や小動物がたくさん棲むようになり、飽和状態になるときがきます。いろいろな生き物の遺体は、分解型の微生物によってただちに分解されます。最終段階まで分解が進むと、窒素分は硝酸態窒素になります。

この硝酸態窒素が土壌にたまっていきます。雨が降ると硝酸態窒素は水に溶けだし、地下水や河川に合流します。これを人間や他の動物が飲むと、さまざまな病気を引き起こします。つまり、硝酸態窒素が土壌にたまることは、水質を悪化させてしまい、生態系にとって大きな不具合を生じることになります。だから、余分な硝酸態窒素は、素早く土壌から取り除く必要があります。

土壌には、「脱窒菌(だっちつきん)」という風変わりな細菌がいて、硝酸態窒素から窒素を抜き出し、空気中に戻す役割を担っています。しかし、脱窒菌でも処理しきれない分は、だれかが処理しなければいけません。そこで植物が、「土壌の掃除係」を担ったのではないでしょうか。そう考えると、植物の根っこが硝酸態窒素を際限なく吸収してしまう性質も合点がいくのです。

おそらく、植物が陸上に進出した四億年前には、このような問題はなかったはずです。長い時間をかけて、地上に動植物があふれ、土壌に棲む生命も飽和状態になって、初めて硝酸態窒素の問題が生じたのです。そこで、生態系を維持するための調整機能が働き、脱窒菌のような微生物が生まれたり、植物が硝酸態窒素を吸収するようになったりしたのではないでしょうか。

ところが、植物たちが土壌中の硝酸態窒素を吸って懸命に掃除をする姿を見て、「植物は硝酸態窒素を養分にして成長している!」と人間は早合点してしまった。それが悲劇の始まりです。

硝酸態窒素があると、そこに生えている植物は、いっせいに掃除を始めます。土壌を浄化することが最優先なので、どんな種類の植物も、同じように際限なく吸ってしまいます。少しだけなら、自分の体内でアミノ酸に合成できますが、すぐに限界を超えてしまいます。あまった硝酸態窒素を茎や葉っぱに貯め込むしかなく、それを目がけて虫が殺到します。しかし、たとえ虫に食われて穴だらけになっても、掃除を止めることができない。それが、植物の背負う悲しい宿命なのです。

硝酸態窒素のもとである肥料を投入すると、野菜といっしょに雑草も成長するので、「雑草は農家の敵」とみなされています。そこで、多くの農家は、雑草をこまめに抜き、大変な思いをして野菜を育てています。硝酸態窒素が野菜の養分であると信じて疑わないからです。しかし植物たちは、こう訴えているのではないでしょうか。「なんで人間は、汚物である硝酸態窒素をわざわざ土のなかに入れて、オレたちに掃除させるのだ。もう勘弁してくれよ」と。

「肥毒」と表現した岡田茂吉さん=自然農法先駆者=の、まさに慧眼だったと思います。

(以上)